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American Short Stories

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スリーピー・ホローの伝説 (ワシントン・アービング)

 

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「アメリカの声」が、特別英語によるアメリカの短編小説をお送りします。きょうはスリーピー・ホローという谷にまつわる物語です。原作者は、アメリカが生んだ最初の小説家と言われているワシントン・アービングです。小説の題名は『スリーピー・ホローの伝説』です。レット・ターナーが特別英語でお送りします。

 

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スリーピー・ホローという名で知られている谷は、ニューヨーク州の高い丘に囲まれていて、外からは見えないところにあります。谷に沿って流れる小さな川の水は清らかで、聞こえるものといえば、丘にあるねぐらに帰ろうとして、道に迷った鳥の声くらいのものでした。

 

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この静かな谷にまつわる言い伝えは数多くありましたが、人々が一番確かだと信じていた話は、夜馬に乗って通る男の話でした。その言い伝えによると、その男というのは、昔、アメリカの独立戦争のころに死んだというのです。その男は頭を撃ち切られたので、毎晩墓場から出て自分の馬にうち乗り、失った頭を捜し求めて谷を駆け抜けるのです。

 

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スリーピー・ホローの近くに、タリー・タウンという村があります。そこは昔オランダ人が住みついたところです。この村には小さな学校が1つと、イカバッド・クレーンという名の先生が1人いました。イカバッド・クレーンという名前は、彼には打ってつけの名前でした。なぜかというと、彼はつる(クレーン)に似ていたからです。つるのように背が高くてやせていたのです。彼の小さな肩からは、ひょろ長い腕が垂れ下がっていました。彼は頭も小さく、てっぺんが平らでした。彼は大きな耳をしていて、目はどんよりとした緑色で、長い鼻をしていました。

 

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イカバッドは、教師の収入だけでは足りませんでした。彼は確かに背が高くてやせてはいましたが、太った人のようにたくさん食べるのです。彼は食費の足しにするために、若い人たちに歌を教えて、ほかからの収入を得ていました。彼は毎週日曜日になると、礼拝のあとで歌を教えていたのです。

 

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イカバッドが教えていた女性の中に、カトリーナ・バン・タッセルという人がいました。彼女は、裕福なオランダ人の農場主のひとり娘でした。彼女はまん丸くて、ほんのり赤らんだりんごのような顔をした、年ごろの娘でした。イカバッドは女性にすぐにほれこむたちでしたので、たちまちバン・タッセル嬢に関心を寄せるようになりました。

 

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カトリーナの農場の豊かさを見たイカバッドは、目を見張りました。そこには、何マイルも続くりんご園や小麦の畑があり、よく太った家畜が何百頭もいたのです。彼は自分がカトリーナを妻として、このバン・タッセル農場の主人になった時のことを頭に描きました。

 

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しかし、カトリーナの愛をかちえるためには、多くの障害が横たわっていました。障害の一つは、ブロム・バン・ブラントというがんじょうな若者でした。そのころ、ブロムは若い女性のあこがれの的だったのです。彼は肩が張っていて背中が大きく、髪の毛は短くカールしていました。彼はいつもタリー・タウンの競馬では優勝して、多くの賞を獲得していました。ブロムは、どこへ行くにも馬に乗って行きました。時折夜遅くブロムは仲間と一緒に、馬に乗って大声を張り上げながら、町を駆け抜けたりしました。眠りを妨げられた老婆(ば)たちは愛想をつかして、こう言ったものです。「ああ、またブロム・バン・ブラントが、荒武者たちの一団を率いて行くんだわ」

 

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イカバッドがカトリーナの愛をかちえるために負かさなげればならない競争相手は、このような男だったのです。イカバッドよりも強くてりこうな人間でさえも、あえて挑戦しなかったでしょうが、イカバッドには計画がありました。彼は競争相手とおおっぴらに戦いを交えるわけにはいきませんので、黙って秘かに争ったのです。彼はたびたびカトリーナの農場を訪れ、彼女に、おかげで歌がうまく歌えるようになった、というように思い込ませました。

 

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時が過ぎて、町の人々はイカバッドのほうが有利だと思うようになりました。もう日曜日の夜に、カトリーナの家でブロムの馬を見かけることもなくなりました。

 

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ある秋の日に、イカバッドはバン・タッセルの家で催される大きなパーティーに招かれました。彼はいっちょうらの服を着こんで行きました。ある農夫がパーティーに行くのに長い道のりを馬で行くようにと、年老いた馬を貸してくれました。

 

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家の中は農夫たちとその妻や、赤ら顔の娘たちや汚れをすっかり落としてきた息子たちでいっぱいでした。テーブルの上には、いろんなごちそうがあふれるばかりに並んでいますし、多くのグラスにはワインがついでありました。

 

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ブロム・バン・ブラントは、彼のデアデビル(向こう見ず)という名の一番足の速い馬に乗ってパーティーに現れました。若い女性は彼を見かけると、みんなにっこりとほほえみました。まもなく部屋中に音楽が鳴り響き、みんな踊ったり歌ったりし始めました。イカバッドは嫉妬(しっと)の眼で見るブロムをしり目に、カトリーナと楽しくダンスをしました。

 

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夜が更けて音楽がやむと、若者たちは独立戦争にまつわる言い伝えを語り合いました。物語は、すぐにスリーピー・ホローにまつわるいろんな言い伝えの話になりました。なかでも一番恐ろしいのは、失った頭を馬に乗って捜しにいく男の話でした。

 

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ある農夫が、馬に乗った頭のない男と競争した時の模様を話しました。その農夫は、自分の馬を速く速く走らせましたが、その馬に乗った男は石の多い茂みを越えて、谷の一番奥まで追ってきました。馬に乗った男は急に止まったかと思うと、男の服も皮膚も何もかもなくなってしまって、そこに残っていたのは、月の光に照らされて光って見える男の自骨だけでした。

 

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いろいろの言い伝えの話も終わって、やがてパーティーから帰る時刻になりました。イカバッドは、カトリーナに別れを告げるまでは、とても幸せそうな顔をしていました。彼女が2人のロマンスに終止符を打ったのでしょうか。彼は、たいへん悲しい思いでその場を去ったのです。カトリーナは、ブロム・バン・ブラントに嫉妬させ彼女と結婚するように仕向けるという、ただそれだけの目的で、イカバッドと会っていたのでしょうか。

 

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E17


さて、イカバッドはタリー・タウンを取り巻いている丘の上を、我が家をめざして遠乗りを始めました。彼はこの時ほど寂しく思ったことはありません。彼は、何年も前にある男が反逆者たちに殺された木の近くまで来ると、口笛を吹き始めました。彼は、木の中で何か白い物が動くのが見えたような気がしました。しかし、実はそうではなく、ただ月の光が木に当たって輝き揺れ動いていたにすぎません。

 

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やがて彼の耳に物音が聞こえてきました。彼は身震いをして馬をけり、さらに速く走らせました。年老いた馬は走ろうとするのですが、かえって転んで川へ落ちそうになる始末でした。イカバッドはもう一度馬をむち打ちました。馬は速く走り出しましたが、今度は急に立ち止まったので、イカバッドは危うく前方に投げ出されそうになりました。そこに、低い茂みのある川べりの木立ちの暗がりの中に、大きくて黒いぶかっこうなものが立っているのです 。

 

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それは動きはしないのですが、今にも巨大な怪物のように飛びかかろうとしているのです。イカバッドは身の毛がよだつ思いでした。逃げようにももう手遅れでしたので、彼は恐ろしさのあまり、ある一つのことを除いてはなすすべを知りませんでした。つまり、彼は震える声で谷間の静けさを破って「だれだっ!」とたずねたのです。その物体は答えませんでした。イカバッドはもう一度たずねました。それでも答えがありません。

 

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イカバッドの年老いた馬が前に進み始めました。黒い物体が、暗がりの中をイカバッドの馬と並んで動き始めました。イカバッドは、さらに速く馬を走らせました。黒い物体はついてきます。黒い物体とイカバッドは並んで進みます。初めのうちはゆっくりと進みましたが、だれも一言も言いません。イカバッドは気がめいりました。黒い物体とイカバッドは、木の影を踏みながら丘を上がっていきました。

 

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月の光がチラッとさしたかと思うと、イカバッドには、恐ろしいことに、その物体が馬であることがわかったのです。おまけに、その馬にはだれかが乗っているのですが、その人には頭がついていないのです。頭は、その人の前、馬の上に乗っかっていたのです。

 

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イカバッドは、力の限り年老いた馬をけったりむち打ったりしました。2人は茂みや木の間をくぐって、全速力でスリーピー・ホローの谷を横切っていきました。前方の上のほうに古い教会の橋がありましたが、首のない騎手はそこで止まって、自分の墓場へ帰っていくのです。「ぼくのほうが先にあそこへ着ければ、ぼくは助かるんだ」とイカバッドは考えました。彼はもう一度馬をけりました。馬は橋に跳びつき、雷鳴のような音を立てて橋を渡りました。

 

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イカバッドは、頭のない騎手が止まったかどうか確かめようとして振り返りました。すると、騎手が自分の頭を拾い上げ、たいへんな勢いでそれを投げつけるのが見えました。頭はイカバッドの顔に当たり・イカバッドは馬からばら土の上に落ちました。

 

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翌日、人々はイカバッドの馬が、何事もなかったかのように草を食べているところを発見しました。イカバッドは見つかりませんでした。人々は、谷を端から端まで横切って歩きました。彼らには、イカバッドの馬が谷を駆け抜ける時に残したひずめの跡が見えました。橋の近くで、イカバッドの帽子がばら土の中から見つかりましたが、イカバッドは見つかりませんでした。ほかに見つかった物といえば、イカバッドの帽子のそばに落ちていたものくらいです。それは、丸いオレンジ色のかぼちゃの破片です。

 

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町の人は何週間もの間、イカバッドのことを話題にしていました。人々は、この谷にまつわる怖い言い伝えのことを思い出して、結局は頭のない騎手がイカバッドをさらっていったのだ、と思い込むようになりました 。

 

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それからずっとたって、ある年寄りの農夫がニューヨーク市へ旅行をして帰ってきました。彼は、ニューヨーク市で確かにイカバッドを見たと言いました。その農夫は、イカバッドはカトリーナとの恋に破れたため、黙ってスリーピー・ホローを立ち去ったのだ、と考えていました。

 

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一方、カトリーナのほうはどうかといいますと、彼女の両親は彼女がブロム・バン・ブラントと結婚した時に、盛大な祝宴を開いてやりました。結婚式に出席した大勢の人たちは、イカバッドの名前が出るたびにブロムがうれしそうな顔をするのを見ました。そして、人々は、だれかがイカバッドの古いほこりだらけの帽子のそばに転がっていた、オレンジ色のかぼちゃの破片のことを言うと、ブロムが大きな声で笑うのはどうしてだろう、と不思議に思いました。

 

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ワシントン・アービング原作のアメリカの短編小説『スリーピー・ホローの伝説』をお送りしました。来週も特別英語による次の短編をお送りしますので、どうぞ「アメリカの声」をお聞きください。

 


日本語訳 Tsuneo Kimura

 

 

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