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American Short Stories

English

 

ブランケット (フロイド・デル)

 

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E01


特別英語によるアメリカの短編小説の時間です。きょうの小説の題名は『ブランケット』です。これはフロイド・デルの作品です。この物語はモリス・ジョイスが特別英語でお伝えいたします。

 

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E02


よく晴れた9月の夜のことでした。淡い三日月が谷の上空に現れました。しかし、三日月は11歳のピーターの目には入りませんでした。彼は、涼しい9月のそよ風が台所に吹き込んでいるのも気づきませんでした。少年は、台所のテー ブルに置いてある赤と黒のブランケットに、すっかり心を奪われていたのです。

 

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E03


このブランケットは、少年のお父さんがおじいさんにあげた贈り物なのです -- お父さんが、家を出ていくおじいさんにお別れの記念にあげたものでした。みんなはおじいさんが出ていく…そう、「出ていく」という言い方をしていたのです。

 

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E04


ピーターには、お父さんがおじいさんを追い出すなんて、信じられないことでした。ところが、今目の前にお別れの贈り物があるのです。その日の朝、お父さんが買ったばかりのものです。そして、その晩は、少年とおじいさんが一緒に過ごす最後の晩だったのです。

 

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E05


老人と少年は、2人でタ食の皿洗いをしました。お父さんは出かけていて留守でした。今度結婚することになっている女性と一緒に出かけていたのです。まだしばらくはもどってきそうにありません。皿洗いが終わると、老人と少年は外へ出て月の下に座りました。
「ハーモニカを取ってきて聞かせてやろう」老人は言いました。「古い曲を吹いてみよう」
ところが、おじいさんはハーモニカの代わりに、例のブランケットを持って出てきました。大きなダブルベッド用のブランケットでした。「どうだ、いいブランケットだろう」老人は、ひざの上でブランケットをなでながら言いました。「出ていく時に持っていくように、こんなブランケットを年寄りにくれるなんて、おまえのお父さんは親切な人だよ。ずいぶん高かったはずだよ。この毛の感触をみてごらん。この冬の寒い夜には、暖かいだろうよ。向こうじゃ、こんなブランケットはないだろうな」

 

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E06


こういうことを言うところは、いかにもおじいさんらしい口振りでした。おじいさんはできるだけみんなを安心させたかったのです。家を出ていく話が持ち出されて以来、おじいさんは、自分の考えで出ていくんだと言っていました。考えてもごらんなさい。暖かい家や友だちと別れてあの建物へ行くのです…ほかの大勢の老人たちと一緒に、何もかもあきらめて 暮らさなければならない、あの国立の施設へ行くのです…でも、ピーターは、今晩お父さんがあの毛布を持って帰ってくるまでは、お父さんがそんなことをさせるはずはないと思っていたのです。
「うん、りっぱなブランケットだね」ピーターはこう言うと、立ち上がって家の中へ入っていきました。彼は声を張り上げて泣くような少年ではありませんでした。それに、もうそんなに幼くはなかったのです。彼は、おじいさんのハーモニカを取りに入っただけなのです。

 

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E07


老人がハーモニカを手にしようとした時、ブランケットが床の上に落ちました。2人で過ごす最後の晩です。老人も少年も無言のうちに心が通じていました。おじいさんは、2、3曲吹いてから言いました。「いいかい、この曲をよく覚えておくんだよ」

 

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E08


三日月は頭上高くかかっていて、そよ風が静かに谷を吹き渡っていました。もう、これっきりだなあ、とピーターは思いました。もう二度と、おじいさんのハーモニカを聞くこともないだろうなあ。お父さんが、ここから遠く離れたところにある新しい家に引っ越してくれるのはありがたいことだ。彼はおじいさんがいなくなったあと、晴れた晩に外へ出て、白々とした月の下でここに座っている気にはなれなかったのです。音楽が終わってからも、しばらくの間、2人は何も言わずに 座っていました。それから、おじいさんが口を開きました。「今度のはもっと楽しい曲だよ」

 

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E09


ピーターは座ったまま谷を見渡していました。お父さんはあの女性と結婚するんだ。そう、ぼくにキスして、きつといいお母さんになるつもりだとかなんとか言っていた、あの女性と結婚するんだ。

 

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E10


曲が突然止まったかと思うと、おじいさんが言いました。「悲しい曲だね。この曲に合わせて踊りでもすりゃ別だがね」おじいさんはさらにことばを続けました。「おまえの父さんが結婚する相手はりっ ぱな女性だとも。あんなきれいな奥さんができたら、父さんは気分が若返るだろうな。わしのような年寄りはこの家にいたって、なんの役にも立ちはしないよ…じゃまになるだけだ…こんな愚かな年寄りはな…話すことったら、二言目にはやれ背中が痛いだの、どこが痛いだのってことばかりだからな。
そのうち赤ん坊も生まれてくるだろうしな。ここにいて、一晩中赤ん坊の泣き声を聞かされた日にゃたまったもんじゃない。そうとも、おじいさんが出ていくのが一番いいんだ。もう1曲か2曲やったら、床に入って休むことにしよう。朝になったら、新しいブランケツトを持っておいとまをするんだ。この曲を聞いてみるがいい。ちょっぴり寂しい曲だが、きょうのような夜にはふさわしい曲だからな」

 

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E11


老人と少年は、お父さんと、人形のように晴れやかではあるがきつい顔をした美しい女性が道を歩いてくる足音に気づきませんでした。しかし、女性の笑い声が2人の耳に聞こえてくると、急に曲がやみました。

 

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E12


お父さんは一言もしゃべりませんでしたが、女性はおじいさんのところへ歩み寄って、しなを作って言いました。「あすの朝はお目にかかれないもんですから、お別れに来ましたのよ」
「それはどうもご親切に」おじいさんは床に目を落としながら言いました。そして足元のブランケットが目に入ると、かがみこんでそれを拾い上げました。「ほら、これを見ておくれ」おじいさんは子どものような声で言いました。「せがれが、出ていく時に持っていくようにといって買ってくれたんだが、なかなかいい ブランケットだろう」
「ええ」彼女は言いました。「いいブランケットですわね」彼女はもう一度毛の感触を試しながら、言いました。「ほんとにいいブランケットですこと」彼女はお父さんのほうに振り向くと、冷ややかに言いました。「ずいぶんしたでしょうね」

 

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E13


お父さんは、せき払いをしながら言いました。「いや、ただぼくは…一番いいものを持たせてあげたいと思ったもんだからね…」
女性はその場に突っ立ったまま、なおもブランケットから目を離しませんでした。「まあ、…それにダブルじゃありませんか」
「そう」老人は言いました。「ダブルベッド用でね、…年寄りが出ていく時に持っていくには、打ってつけのブランケットだよ」

 

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E14


少年は突然家の中へ入っていきました。彼の耳には、女性がまだあの高価なブランケットのことを話しているのが聞こえました。お父さんがいつものように徐々にではあるが、腹を立てているのも聞こえてきました。そろそろ彼女は帰りかけているところでした。ピーターが出てくると、彼女は振り返って大声で言い返しました。「あなたがなんとおっしゃろうと、おじいさんにはダブルのブランケットなんか必要じゃありませんからね」
お父さんは、なんとも言えない目つきで彼女を見ていました。
「あの人の言うとおりだよ、お父さん」少年は言いました。「おじいさんにはダブルのブランケットなんかいらないよ。さあ、お父さん」と言ってはさみを差し出しました。「切るんだよ、お父さん、…ブランケットを2つに切ればいいんだよ」
2人は驚いて少年の顔を見ました。
「いいんだよ、お父さん、2つに切ればいいんだ。そして、残った半
分を取っておくんだよ」
「それもいい考えじゃないか」おじいさんは静かに言いました。「わしはこんなに大きなブランケットは要らんからな」
「そうだよ」少年は言いました。「年寄りが追い出される時は、シングルベッド用のブランケットで十分だよ。あとの半分は残しておこうよ、お父さん。そのうちに要るようになるだろうから」
「でも、それはどういう意味だい?」お父さんがたずねました。
「ぼくが言ってるのはね」少年はゆっくり言いました。「お父さんが年を取って、ぼくがお父さんを追い出すようにならたら、ぼくからお父さんに贈るんだよ、お父さん」
長い間沈黙が続きました。やがて、お父さんはおじいさんのところへ歩み寄って、おじいさんの前に立ちましたが、一言も言いませんでした。

 

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E15


しかし、おじいさんにはお父さんの気持ちがわかっていたのです。おじいさんはお父さんの肩に手を置いたくらいですから。ピーターは2人をじっと見ていました。やがて、少年の耳におじいさんが静かにささやくのが聞こえました。「いいんだよ -- おまえの本心でなかったことくらい、わしにもわかっていたんだから」これを聞いて、ピーターは声を出して泣きました。でも、だれも気づきませんでした。3人ともみんな泣いていたからです。

 

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E16


お送りした『ブランケット』の物語は、世界中で一番古く、一番広く伝わっている物語の一つです。この物語のアメリカ版の著者であるフロイド・デルは、この物語は実際にあったこととして、ニューヨークで初めて聞いたと言っています。しかし、この物語を書いて出版してみると、この物語はアイルランド、中国、ギリシア、そのほかの国々でも語り継がれている、という手紙が寄せられ始めました。そこで、デル氏はこの物語の調査をしました。

 

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E17


彼は自分の書いた小説が、中世フランス版とよく似ていることを知りました。ペルシア版は『分けられた馬衣(馬の背を覆う布)』という題名で呼ばれていました。古代ギリシァ版には、布もブランケットも出てきません。老人はテーブル・マナーが義理の娘の気に入らないという理由で、台所のすみで食べるようにといって木のおわんをあてがわれるのです。少年がもう一つおわんをくり抜いて作り、父親にこう説明します。「ぼくは、お父さんが年を取ったらのけ者にして、台所で食事をさせる時にあげようと思って、もう一つおわんを作ってるんだよ」

 

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E18


この物語はどの版にも3世代 -- つまり、少年と父親とおじいさんが登場しますが、多くの場合、女性も登場します。ですから、この物語はほとんど世界中の国で、何百という世代によって、試みられていることになるわけです。

 

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E19


みなさんもこの物語を楽しんでいただけたことと思います。来週またこの時問に、次の特別英語によるアメリカの小説をお届けします。どうぞお聞きください。

 


日本語訳 Tsuneo Kimura

 

 

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